お気に入りのフレーズ(村上春樹)
今にして思えば、わたしは自分が強いことに慣れすぎていて、弱い人々について理解しようとしなかった。幸運であることに慣れすぎていて、たまたま幸運じゃない人たちについて理解しようとしなかった。健康であることに慣れすぎていて、たまたま健康ではない人たちの痛みについて理解しようとしなかった。わたしは、いろんなことがうまくいかなくて困ったり、立ちすくんでいたりする人たちを見ると、それは本人の努力が足りないだけだと考えた。不平を口にする人たちを、基本的には怠け者だと考えた。当時のわたしの人生観は、(略)温かい心の広がりを欠いていた。そしてそれについて注意してくれるようなひとは、まわりには一人もいなかった。